2004年10月27日
Crossing the border
久しぶりに、添削の仕事をした。答案の出来は、残念ながら概ね芳しくなかったが、今回も、こちらが思わず舌を巻くような面白い答案に出会えた。
94年、慶應環境情報学部は、変遷する世相と、そんな世相の中での現代人の様々な生き方を抽出した漫画や新聞記事を資料にして、『あなたらしい豊かな生き方とは何か』を具体的に表明せよという、比類稀な問題を出題した。おそらく、SFC15年の入学試験の中で最も特異な問題だろう。
各資料が暗示している内容を整理すると、そこには「精神重視⇔物質重視」、「個人重視⇔社会参加重視」という対立軸が見えてくる。この対立軸を読みきった上で、各資料に登場する各々の生き方を整理し、自分の生き方を相対的に位置づけて説明出来れば十分合格答案といったところだろうか。
だが、このような、「精神重視⇔物質重視」・「個人重視⇔社会参加重視」という構図を二律背反としか捉えず、いずれかを選択するというパラダイム自体を打ち壊してしまう、破壊力のある答案が一枚あった。
答案は、「私の理想とする生き方は、このような対立を打ち壊し、それを『越境』していくような生き方である」と冒頭で宣言する。その後、「21世紀にはボランティア活動など、個人の内面的な活動が社会に繋がりを持つことが可能であり、そのような『越境』こそ21世紀にふさわしい」ということを力強く説く。
そこには、今までプロの模範答案を含めて誰も出来なかった、固定観念の打破があった。
「精神重視⇔物質重視」・「個人重視⇔社会参加重視」が、今まで「対立」としか捉えられて来なかったことには、それなりの必然があるのだと思う。コミュニティーが個人に分解され、人間・物・情報がバラバラになってしまった現代において、これらを「越境」することが容易でないことは、想像に難くない。
人間の所業などというものは、常に理想通りには行われず、もちろん常に理想的な結果になるわけではない。「社会的」だと思って行った行為が、時として独善に結びつくこともある。
答案を書いてくれた彼女自身、これからの人生で「越境」していくことは、そう簡単ではないのかもしれない。それでも、この理想を書いた答案は評価されるべきだと思う。今回採点した中で唯一の「A下」だった。
- by yuhei.k
- at 23:26

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